東京高等裁判所 昭和26年(ネ)1467号・昭26年(ネ)2614号 判決
山梨県農地委員会が昭和二十三年九月二十日原判決添付別紙第一目録記載の(1)ないし(7)及び(8)の土地に対する買収計画に関し控訴人の訴願を棄却した各裁決は、同目録(6)(7)の土地を除くその余の部分につき、これを取り消す。
控訴人その余の請求はこれを棄却する。
被控訴人の附帯控訴を棄却する。
訴訟の総費用はこれを四分し、その一を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。
二、事 実
控訴人(附帯被控訴人)の代理人は「原判決中、末尾添付第一目録に記載した(3)(4)(8)の土地の買収計画に対する訴願棄却の各裁決取消の請求を容れた部分を除き、その余を取り消す。被控訴人が昭和二十三年九月二十日同目録記載(1)(2)(5)(6)(7)の各土地の買収計画に関し、控訴人の訴願を棄却した裁決を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨並に附帯控訴はこれを棄却するとの判決を求め、被控訴人(附帯控訴人以下同じ)の指定代理人は、控訴棄却の判決並に附帯控訴として「原判決中被控訴人敗訴の部分を取り消す。控訴人の本件各裁決取消の請求を棄却する。控訴費用は凡て控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の供述は、原判決事実摘示と同一につきこれを引用する(証拠省略)。
三、理 由
控訴人所有の原判決添付第一目録記載の土地につき、自作農創設特別措置法第三条第五項第一号に基いて樹てられた農地買収計画に対し、異議却下の決定並に訴願棄却の裁決が為され、控訴人主張の日該裁決書謄本が送達されるに至るまでの経過的事実については、凡て本件当事者間に争がない。
控訴人は同目録記載(1)ないし(5)及び(8)の土地は、買収計画樹立当時いずれも現況農地でないに拘らず、諏訪町農地委員会がこれを農地と誤認して該計画に編入したのは違法であると主張するので、以下順次これにつき審按する。
(1) 諏訪町室伏刷毛前一四〇番宅地(現況畑)二畝三歩(目録の(1))これは現況畑として買収計画に編入せられたのであるが、元来農地でなくして宅地であつたことは地目の示すとおりである。ところで原審並に当審第一、二回の検証の結果によれば、本件土地は控訴人居宅に極めて近接し、その向側道路の分岐する地点にあつて交通至便であり、東側は他家の住宅地となつている。而してその西南部には樹齢六、七十年に達する檜の大木が一本、北寄りに約十五年生の栗の木一本、北側境界附近及西側に亘つて柿の木三本があつて、地上一帯にその樹枝に蔽われて陰地を為し、その大部分は従来農耕に供せられた形跡なく、僅に南側の一小部分(約二十歩位)が菜園に利用され、蔬菜類を栽培しているけれども、これとても樹陰の為に生育極めて不良で普通の畑の比でないことが認められ、これを現地に即して全体として観察すれば、本件の土地は現況耕作の目的に使用される農地と見るのは失当といわざるを得ない。原審証人掛本国久(第二回)の右認定に反する証言は到底採用し難い。
(2) 同字西畑五六五番畑一反二十八歩(目録の(2))
当審における証人上野実の証言及び控訴本人尋問の結果と原審並に当審(第一、二回)検証の結果とを綜合すれば、本件土地は古くは蔬菜栽培の為め農地として使用されていたが約十五、六年若くは二十年前頃より農耕を廃してこれに栗の木等を植え、現に直径約五寸樹齢凡そ二十年位の栗四十二本が全域に亘り二間ないし三間置きに生立し、東北隅には柿の木三本があつて、一見栗林の観を呈しているのであるが、従来下草刈取、樹枝剪定、肥培管理等の手入を施すことなく自然の生育に放置されてあることが窺われる、控訴人の供述によれば控訴人は毎年約三十貫位の栗の実を同所より取入れており、かような土地は若し施肥手入を為すときは、更に一層多くの収益を挙げ得られるものとしても、それが現実に肥培管理等耕作の目的に供せられていない以上、これを以て粗放耕作地であるとも認定することはできないのである。
(3) 同字極楽寺二九六番の二畑二畝七歩(目録の(3))
(4) 同所二九七番の二畑二畝二十二歩(目録の(4))
この二筆の土地は、原判決叙説の如くいずれも樹林地であつて農地と認めるのは相当でない。当審における検証の各結果も右認定を支持するに足り、他にこれを覆すべき証拠はない。よつて原判決理由の説明を引用する。(但し原判決理由中二九七番の二畑二畝二十二歩に生立する樹木のうち、樹齢十五年位の栗の木三本、あまんどう三本とあるのは、当審検証の結果によれば各二本が正当であると認められるけれども、この事は右土地を全体的に観て農地に非ずとする認定には何等消長を来さない)。
(5) 同所二百八十六番畑五畝二歩(目録の(5))
当審第一、二回の検証の結果によるも、本件土地の現状所見は原判決理由に掲記したとおりであり、当裁判所も原審と同一理由により、該土地は従前耕地として使用されていたが、土地の周辺に植えられた樹木の枝葉が繁茂するにつれて次第に陰地と化し、遂に東側約一畝歩を除いては全く耕作されなくなつてしまつたものの、その故に農地たる本質を失うに至つたのではないから、いわゆる休墾地に該当するものと認めるのを相当としたので、ここに原判決理由を引用する。然るところ原審並に当審(第二回)検証の結果によれば、本件土地の北側二八七番畑との境に幅一尺五寸位の用水路が二八九番畑に接して東方に通じ、西北部において地下に埋設した土管を潜つて控訴人居宅に導かれ、その用水は控訴人方の日常洗濯兼飲用に供され生活上重要な役割をしていることが看取されるのである。自作農創設特別措置法第三条第五項第一号は耕作の業務が不適正と認められる農地所有者の一定保有限度を超える農地を買収しうる旨規定しているのであるが、該規定に基く買収により被買収者の農家としての日常生活に必要な用水の確保に著しい支障を来す恐ある結果を生ずるが如きことは、農業経営上の利便を増進し農業生産力の発展を庶期する同法本来の目的に背馳すること明かであるから、これが買収は許されざるものと解すべく、従つて本件土地が一応農地として買収計画の目的たりうるものとしても、右用水路の護岸改修並に導水管の設置確保に必要な範囲の土地は買収に適せざるものとして該計画より除外すべきが当然であると考える。
(6) 同所三〇五番の二畑六畝八歩(目録の(8))
本件土地も原判決と同一理由により、現況は農地でないと認めるのを相当とする。この認定を覆すに足る証拠は存しない。
以上認定のとおり(1)ないし(4)及び(6)に掲げた土地(原判決添付目録(1)ないし(4)及び(8))はいずれも現況農地と認め難いのであるから、諏訪町農地委員会がこれを控訴人の自作農地と認めて買収計画に編入したのは明かに違法であり、右(5)の土地(目録の(5))を農地と認定したのは相当であるけれども、該土地に存する用水路並に導水管の管理保存上必要とされる最少限度の土地をも除外することなくして、その全部につき買収計画を樹立したのは失当であり、該計画はこの範囲において違法といわねばならない。
次に原判決添付第二及び第三目録記載の各土地が控訴人の次男三枝剛吉及び三男三枝浩吉の貸与を受けた小作地であるか否かについて審究するに、右浩吉が昭和二十年八月頃より控訴人とは別世帯を営んで生活していた当事者間に争のない事実と、原審証人三枝円吉の証言及び同証言により真正に成立したと認める甲第七号証成立に争のない同第十号証の二等を綜合すれば、前記第三目録中甲に記載してある畑三筆合計四畝十六歩は、右浩吉が昭和二十年八月以降控訴人より無償貸与を受けて耕作していた使用貸借上の小作地であることが認められ、被控訴人主張の如く諏訪町農地委員会の耕地一筆調査に際し、控訴人が昭和二十二年二月中これを自作地に含め自作地合計を二町四反四畝五歩として申告しながら、山梨県における自作農創設特別措置法第三条第一項第三号の面積が二町一反と定められた後に至り、右第二第三目録記載の土地を小作地として除外し申告し直した事実があつたからとて、必ずしも右使用貸借を虚偽仮装であるとは断定することはできないし、成立に争のない乙第七号証同第八号証によれば三枝浩吉が昭和二十六年四月三十日附を以て甲府市所在の勤務先会社を退職し、その家族が翌年三月末頃までに悉く東京都内に転住した事実が認められるけれども、このことから推して該耕地の使用関係が借主に小作権を成立せしめざる趣旨に出た親子間における疎開中の一時的貸借であつたものと論ずることも相当でなく、その他控訴人の挙げる証拠によつては叙上認定を覆すに足りない。而して当時施行の農地調整法によれば、耕作の目的に供する為の農地に関する権利の取得は何等制限されず、地方長官又は市町村長の認可を要せずして有効とされていたのであるから、本件農地は小作地としてこれを控訴人の自作地より控除すべきが当然であつたのである。然しながら原判決添付第二目録記載の土地及び同第三目録乙記載の土地に対する控訴人主張の使用貸借上の権利設定は、その事実が認め得られるとしても昭和二十一年法律第四十二号を以てする改正農地調整法第四条により、所轄諏訪町農地委員会の承認を受けざる理由を以てこれを無効とすべきであること及び同委員会がかかる解釈の下に事務を処理し、該土地に対する三枝剛吉同浩吉等の買収申請を取り上げなかつたことを以て憲法第十四条第二十九条に違反するものと為し得ないことは、原判決説示のとおりである。かくて本件買収計画樹立当時における控訴人の自作農地の面積は前記第一目録及び第三目録甲の土地を含めて計算した二町四反四畝五歩より、第一目録記載の(1)(2)(3)(4)(8)の土地合計二反四畝八歩及び第三目録甲の土地合計四畝十六歩を控除した二町一反五畝十一歩となる訳である。
然るところ、原判決挙示の証拠によれば控訴人家においては控訴人自身は最早老齢の為め耕作に従事することができず、主となつて耕作の業務を担当するのは長男往吉夫婦だけであつて、自家労力のみを以て自作地を能率的に耕作するにはその耕作面積に比し著しく手不足の状態にあり、それが為め耕地の管理十分に行き屈かず、耕作状況も亦粗雑であることが認められ、然かも山梨県における自作農創設特別措置法第三条第一項第三号の保有限度である二町一反を超える自作地の部分を他人に分割して耕作せしめても生産が減退するものとは云えないから、仮令前記第一目録記載の(6)(7)の桑畑だけを取つて見ればその管理も作柄も、他に比して格別遜色がないにしても、全般的に観察すればその耕作の業務は適正を欠くものと認むべきであり、当裁判所はこの点について原判決と所見を同じくする。それ故控訴人の自作地二町一反五畝十一歩のうち右保有限度を超える五畝十一歩は同法第三条第五項第一号に基きこれを買収することができるものというべきである。
然りとすれば、右買収可能の範囲内なる原判決添付第一目録記載(6)の御堂後三八〇番田二畝八歩及び(7)の同所三八一番田二畝一六歩に関する限り買収計画は適法と認むべきであるが、五畝十一歩より該二筆を控除した残十七歩については、同(5)の極楽寺二八六番畑五畝二歩の買収に適する部分うち如何なる範囲を以て買収に充つべきかはこれを確定することができないので、本件買収計画は右(5)の土地については結局その全部を違法とする外なき筋合である。
それ故山梨県農地委員会が原判決添付第一目録記載の各土地の買収計画について為した訴願棄却の裁決は、前記(6)及び(7)の土地に関する限り正当であるが、その余の土地について違法であつて、これが取消を求める控訴人の請求はその範囲においてのみこれを正当として認容すべく、本件控訴は一部理由ありとすべきである。よつて右とその趣旨を異にする原判決を変更し、被控訴人の附帯控訴は理由なきにつきこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)
(目録省略)